1条 (この法律の趣旨)
1項 この法律は、交通に関する刑事事件の迅速適正な処理を図るため、その即決裁判に関する手続を定めるものとする。
2条 (定義)
1項 この法律において「 交通に関する刑事事件 」とは、 道路交通法 (1960年法律第105号)第8章の罪にあたる事件をいう。
3条 (即決裁判)
1項 簡易裁判所は、 交通に関する刑事事件 について、検察官の請求により、公判前、即決裁判で、510,000円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行を猶予し、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
2項 即決裁判は、即決裁判手続によることについて、被告人に異議があるときは、することができない。
4条 (即決裁判の請求)
1項 即決裁判の請求は、 刑事訴訟法 (1948年法律第131号)による公訴の提起と同時に、書面でしなければならない。
2項 検察官は、即決裁判の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、即決裁判手続を理解させるために必要な事項を説明し、 刑事訴訟法 の定める手続に従い裁判を受けることができる旨を告げた上、即決裁判手続によることについて異議がないかどうかを確かめなければならない。
5条 (書類等の差出)
1項 検察官は、即決裁判の請求と同時に、即決裁判をするために必要があると思料する書類及び証拠物を裁判所に差し出さなければならない。
6条 (通常の審判)
1項 裁判所は、即決裁判の請求があつた場合において、その事件が即決裁判をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、 刑事訴訟法 の定める通常の規定に従い、審判しなければならない。
2項 裁判所は、前項の規定により通常の規定に従い審判するときは、直ちに、検察官にその旨を通知しなければならない。
3項 第1項の場合には、 刑事訴訟法
第271条
《 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅…》
滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。 公訴の提起があつた日から2箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
及び
第272条
《 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅…》
滞なく被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を知らせなければならない。 但し、被告人に弁護人があ
の規定の適用があるものとする。但し、同法第271条第2項に定める期間は、前項の通知のあつた日から2箇月とする。
7条 (審判)
1項 即決裁判の請求があつたときは、裁判所は、前条第1項の場合を除き、即日期日を開いて審判するものとする。
8条 (開廷)
1項 即決裁判期日における取調及び裁判の宣告は、公開の法廷で行う。
2項 法廷は、裁判官及び裁判所書記官が列席して開く。
3項 検察官は、法廷に出席することができる。
9条 (被告人及び弁護人の出頭)
1項 被告人が期日に出頭しないときは、開廷することができない。
2項 被告人が法人であるときは、代理人を出頭させることができる。
3項 弁護人は、期日に出頭することができる。
10条 (期日における取調)
1項 期日においては、裁判長は、まず、被告人に対し、被告事件の要旨及び自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。
2項 前項の手続が終つた後、裁判長は、被告人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
3項 裁判所は、必要と認めるときは、適当と認める方法により被告人又は参考人の陳述を聴き、書類及び証拠物を取り調べ、その他事実の取調をすることができる。
4項 検察官及び弁護人は、意見を述べることができる。
11条 (証拠)
1項 即決裁判手続においては、被告人の憲法上の権利を侵さない限り、検察官が差し出した書類及び証拠物並びに期日において取調をしたすべての資料に基いて、裁判することができる。
12条 (裁判の宣告)
1項 即決裁判の宣告をする場合には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに宣告があつた日から14日以内に 刑事訴訟法 の定める通常の規定による審判(以下「 正式裁判 」という。)の請求ができる旨を告げなければならない。
2項 即決裁判の宣告をしたときは、その内容を記録に明らかにしておかなければならない。
13条 (正式裁判の請求)
1項 即決裁判の宣告があつたときは、被告人又は検察官は、その宣告があつた日から14日以内に、 正式裁判 の請求をすることができる。
2項 正式裁判 の請求は、即決裁判をした裁判所に、書面でしなければならない。
3項 正式裁判 の請求があつたときは、裁判所は、すみやかに、その旨を検察官又は被告人に通知しなければならない。
4項 刑事訴訟法
第466条
《 正式裁判の請求は、第一審の判決があるま…》
でこれを取り下げることができる。
から
第468条
《 正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、…》
又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。 この決定に対しては、即時抗告をすることができる。 正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければ
までの規定は、 正式裁判 の請求又はその取下について準用する。この場合において、同法第468条第3項中「略式命令」とあるのは、「即決裁判」と読み替えるものとする。
14条 (即決裁判の効力)
1項 即決裁判は、 正式裁判 の請求による判決があつたときは、その効力を失う。
2項 即決裁判が効力を失つたときは、 刑事訴訟法
第345条の2
《 裁判所は、罰金の裁判その刑の執行猶予の…》
言渡しをしないものに限る。以下同じ。の告知を受けた被告人について、当該裁判の確定後に罰金を完納することができないこととなるおそれがあると認めるときは、勾留状を発する場合を除き、検察官の請求により、又は
の規定による決定及び同法第345条の3において読み替えて準用する同法第342条の8第1項(第1号に係る部分に限る。)の規定による決定に係る勾留状は、その効力を失う。
3項 即決裁判は、 正式裁判 の請求期間の経過又はその請求の取下げにより、確定判決と同1の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。
15条 (仮納付)
1項 裁判所は、即決裁判の宣告をする場合において相当と認めるときは、付随の処分として、被告人に対し、仮に罰金又は科料に相当する金額を納付すべきことを命ずることができる。
2項 前項の仮納付の裁判は、直ちに執行することができる。ただし、 正式裁判 の請求があつたときは、この限りでない。
3項 刑事訴訟法
第490条
《 罰金、科料、没収、追徴、過料、没取、訴…》
訟費用、費用賠償又は仮納付の裁判は、検察官の命令によつてこれを執行する。 この命令は、執行力のある債務名義と同1の効力を有する。 前項の裁判の執行は、民事執行法1979年法律第4号その他強制執行の手続
、
第492条
《 法人に対して罰金、科料、没収又は追徴を…》
言い渡した場合に、その法人が判決の確定した後合併によつて消滅したときは、合併の後存続する法人又は合併によつて設立された法人に対して執行することができる。
の二、
第493条
《 第一審と第二審とにおいて、仮納付の裁判…》
があつた場合に、第一審の仮納付の裁判について既に執行があつたときは、その執行は、これを第二審の仮納付の裁判で納付を命ぜられた金額の限度において、第二審の仮納付の裁判についての執行とみなす。 前項の場合
及び
第494条
《 仮納付の裁判の執行があつた後に、罰金、…》
科料又は追徴の裁判が確定したときは、その金額の限度において刑の執行があつたものとみなす。 前項の場合において、仮納付の裁判の執行によつて得た金額が罰金、科料又は追徴の金額を超えるときは、その超過額は、
の規定は、第1項の仮納付の裁判の執行について準用する。この場合において、同法第493条中「第一審」とあるのは「即決裁判手続」と、「第二審」とあるのは「第一審又は第二審」と読み替えるものとする。
16条 (裁判官の除斥)
1項 裁判官は、事件について前に即決裁判をしたときは、職務の執行から除斥される。
17条 (刑事訴訟法との関係)
1項 交通に関する刑事事件 の即決裁判手続については、この法律に特別の規定があるものの外、その性質に反しない限り、 刑事訴訟法 による。