肝炎対策基本法《本則》

法番号:2009年法律第97号

附則 >  

前文 今日、我が国には、肝炎ウイルスに感染し、あるいは肝炎に患した者が多数存在し、肝炎が国内最大の感染症となっている。肝炎は、適切な治療を行わないまま放置すると慢性化し、肝硬変、肝がんといったより重篤な疾病に進行するおそれがあることから、これらの者にとって、将来への不安は計り知れないものがある。戦後の医療の進歩、医学的知見の積重ね、科学技術の進展により、肝炎の克服に向けた道筋が開かれてきたが、他方で、現在においても、早期発見や医療へのアクセスにはいまだ解決すべき課題が多く、さらには、肝炎ウイルスや肝炎に対する正しい理解が、国民すべてに定着しているとは言えない。B型肝炎及びC型肝炎に係るウイルスへの感染については、国の責めに帰すべき事由によりもたらされ、又はその原因が解明されていなかったことによりもたらされたものがある。特定の血液凝固因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入することによって不特定多数の者に感染被害を出した薬害肝炎事件では、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについて国が責任を認め、集団予防接種の際の注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスの感染被害を出した予防接種禍事件では、最終の司法判断において国の責任が確定している。このような現状において、肝炎ウイルスの感染者及び肝炎患者の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保するなど、肝炎の克服に向けた取組を一層進めていくことが求められている。ここに、肝炎対策に係る施策について、その基本理念を明らかにするとともに、これを総合的に推進するため、この法律を制定する。


1章 総則

1条 (目的)

1項 この法律は、肝炎対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民及び医師等の責務を明らかにし、並びに肝炎対策の推進に関する指針の策定について定めるとともに、肝炎対策の基本となる事項を定めることにより、肝炎対策を総合的に推進することを目的とする。

2条 (基本理念)

1項 肝炎対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

1号 肝炎に関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、肝炎の予防、診断、治療等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、活用し、及び発展させること。

2号 何人もその居住する地域にかかわらず等しく肝炎に係る検査(以下「 肝炎検査 」という。)を受けることができるようにすること。

3号 肝炎ウイルスの感染者及び肝炎患者(以下「 肝炎患者等 」という。)がその居住する地域にかかわらず等しく適切な肝炎に係る医療(以下「 肝炎医療 」という。)を受けることができるようにすること。

4号 前3号に係る施策を実施するに当たっては、 肝炎患者等 の人権が尊重され、肝炎患者等であることを理由に差別されないように配慮するものとすること。

3条 (国の責務)

1項 国は、前条の 基本理念 次条において「 基本理念 」という。)にのっとり、肝炎対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

4条 (地方公共団体の責務)

1項 地方公共団体は、 基本理念 にのっとり、肝炎対策に関し、国との連携を図りつつ、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

5条 (医療保険者の責務)

1項 医療保険者( 介護保険法 1997年法律第123号第7条第7項 《7 この法律において「医療保険者」とは、…》 医療保険各法の規定により医療に関する給付を行う全国健康保険協会、健康保険組合、都道府県及び市町村特別区を含む。、国民健康保険組合、共済組合又は日本私立学校振興・共済事業団をいう。 に規定する医療保険者をいう。)は、国及び地方公共団体が講ずる肝炎の予防に関する啓発及び知識の普及、 肝炎検査 に関する普及啓発等の施策に協力するよう努めなければならない。

6条 (国民の責務)

1項 国民は、肝炎に関する正しい知識を持ち、 肝炎患者等 が肝炎患者等であることを理由に差別されないように配慮するとともに、肝炎の予防に必要な注意を払うよう努め、必要に応じ、 肝炎検査 を受けるよう努めなければならない。

7条 (医師等の責務)

1項 医師その他の医療関係者は、国及び地方公共団体が講ずる肝炎対策に協力し、肝炎の予防に寄与するよう努めるとともに、 肝炎患者等 の置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切な 肝炎医療 を行うよう努めなければならない。

8条 (法制上の措置等)

1項 政府は、肝炎対策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

2章 肝炎対策基本指針

9条 (肝炎対策基本指針の策定等)

1項 厚生労働大臣は、肝炎対策の総合的な推進を図るため、肝炎対策の推進に関する基本的な指針(以下「 肝炎対策基本指針 」という。)を策定しなければならない。

2項 肝炎対策基本指針 は、次に掲げる事項について定めるものとする。

1号 肝炎の予防及び 肝炎医療 の推進の基本的な方向

2号 肝炎の予防のための施策に関する事項

3号 肝炎検査 の実施体制及び検査能力の向上に関する事項

4号 肝炎医療 を提供する体制の確保に関する事項

5号 肝炎の予防及び 肝炎医療 に関する人材の育成に関する事項

6号 肝炎に関する調査及び研究に関する事項

7号 肝炎医療 のための医薬品の研究開発の推進に関する事項

8号 肝炎に関する啓発及び知識の普及並びに 肝炎患者等 の人権の尊重に関する事項

9号 その他肝炎対策の推進に関する重要事項

3項 厚生労働大臣は、 肝炎対策基本指針 を策定しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、肝炎対策推進協議会の意見を聴くものとする。

4項 厚生労働大臣は、 肝炎対策基本指針 を策定したときは、遅滞なく、これをインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

5項 厚生労働大臣は、 肝炎医療 に関する状況の変化を勘案し、及び肝炎対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも5年ごとに、 肝炎対策基本指針 に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。

6項 第3項及び第4項の規定は、 肝炎対策基本指針 の変更について準用する。

10条 (関係行政機関への要請)

1項 厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対して、 肝炎対策基本指針 の策定のための資料の提出又は肝炎対策基本指針において定められた施策であって当該行政機関の所管に係るものの実施について、必要な要請をすることができる。

3章 基本的施策 > 1節 肝炎の予防及び早期発見の推進

11条 (肝炎の予防の推進)

1項 及び地方公共団体は、肝炎の予防に関する啓発及び知識の普及その他の肝炎の予防の推進のために必要な施策を講ずるものとする。

12条 (肝炎検査の質の向上等)

1項 及び地方公共団体は、肝炎の早期発見に資するよう、 肝炎検査 の方法等の検討、肝炎検査の事業評価の実施、肝炎検査に携わる医療従事者に対する研修の機会の確保その他の肝炎検査の質の向上等を図るために必要な施策を講ずるとともに、肝炎検査の受検率の向上に資するよう、肝炎検査に関する普及啓発その他必要な施策を講ずるものとする。

2節 肝炎医療の均てん化の促進等

13条 (専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成)

1項 及び地方公共団体は、インターフェロン治療等の抗ウイルス療法、肝護療法その他の 肝炎医療 に携わる専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成を図るために必要な施策を講ずるものとする。

14条 (医療機関の整備等)

1項 及び地方公共団体は、 肝炎患者等 がその居住する地域にかかわらず等しくその状態に応じた適切な 肝炎医療 を受けることができるよう、専門的な肝炎医療の提供等を行う医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。

2項 及び地方公共団体は、 肝炎患者等 に対し適切な 肝炎医療 が提供されるよう、前項の医療機関その他の医療機関の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。

15条 (肝炎患者の療養に係る経済的支援)

1項 及び地方公共団体は、肝炎患者が必要に応じ適切な 肝炎医療 を受けることができるよう、肝炎患者に係る経済的な負担を軽減するために必要な施策を講ずるものとする。

16条 (肝炎医療を受ける機会の確保等)

1項 及び地方公共団体は、肝炎患者が 肝炎医療 を受けるに当たって入院、通院等に支障がないよう医療機関、肝炎患者を雇用する者その他の関係する者間の連携協力体制を確保することその他の肝炎患者が肝炎医療を受ける機会の確保のために必要な施策を講ずるとともに、医療従事者に対する肝炎患者の療養生活の質の維持向上に関する研修の機会を確保することその他の肝炎患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする。

17条 (肝炎医療に関する情報の収集提供体制の整備等)

1項 及び地方公共団体は、 肝炎医療 に関する情報の収集及び提供を行う体制を整備するために必要な施策を講ずるとともに、 肝炎患者等 、その家族及びこれらの者の関係者に対する相談支援等を推進するために必要な施策を講ずるものとする。

3節 研究の推進等

18条

1項 及び地方公共団体は、革新的な肝炎の予防、診断及び治療に関する方法の開発その他の肝炎の罹患率及び肝炎に起因する死亡率の低下に資する事項についての研究が促進され、並びにその成果が活用されるよう必要な施策を講ずるものとする。

2項 及び地方公共団体は、 肝炎医療 を行う上で特に必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の早期の 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 1960年法律第145号)の規定による製造販売の承認に資するようその治験が迅速かつ確実に行われ、並びに肝炎医療に係る標準的な治療方法の開発に係る臨床研究が円滑に行われる環境の整備のために必要な施策を講ずるものとする。

4章 肝炎対策推進協議会

19条

1項 厚生労働省に、 肝炎対策基本指針 に関し、 第9条第3項 《3 厚生労働大臣は、肝炎対策基本指針を策…》 定しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、肝炎対策推進協議会の意見を聴くものとする。同条第6項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、肝炎対策推進 協議会 以下「 協議会 」という。)を置く。

20条

1項 協議会 は、委員20人以内で組織する。

2項 協議会 の委員は、 肝炎患者等 及びその家族又は遺族を代表する者、 肝炎医療 に従事する者並びに学識経験のある者のうちから、厚生労働大臣が任命する。

3項 協議会 の委員は、非常勤とする。

4項 前3項に定めるもののほか、 協議会 の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

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